2009年9月に発売されたそのプラモデルには、ファンの間で賛否両論が起きた。結果は圧倒的な「否」だった。
模型の中でも「硬派」とされる戦闘機の機体に、テレビゲーム「アイドルマスター(アイマス)」シリーズに登場するキャラクターのデカール(シール)をあしらった「アイドルマスタープロジェクト」。そんなギャップ感が満載された商品を送り出したのが、飛行機模型で知られる老舗のハセガワだった。
「とんでもない数のブーイングが寄せられた」。長谷川勝人(まさと)専務(53)が振り返る。
異色のコラボレーションは、09年5月に静岡市で開かれた見本市「静岡ホビーショー」がきっかけだった。
アイマスを手掛けるバンダイナムコゲームス(東京)から「ハセガワさんでしかできない」と提案された。
社外との初の共同製作だった。さらに「萌(も)え」要素の強い題材に、社内でも抵抗は少なくなかった。
長谷川さんが納得したのは、「いろいろなつながりを持って、新しいことに常に挑戦していく会社にしたい」との思いがあったからだ。
それに「このままでいいのか」という強い危機感もあった。
大手ネット通販サイトでホビー部門の売り上げ上位を見ると、主力商品のスケールモデル(実物を縮小した模型)は、ほとんどない。
「自分が王道だと思っていたものが、いつの間にかマイノリティー(少数派)になってしまっていることに気付いた」という。
40代以上には、実物の戦闘機が「ヒーロー」だった。一方、今の若者は、ゲームの中のキャラクターとして戦闘機に魅力を感じているのではないか。そんな考えに至った。
スケールモデルでありながらキャラクター商品でもあるアイマスプロジェクト(2000円台~7000円台)は、
プラモデル未経験の若者層にも広がり、昨年12月までに37種、累計約7万個を売り上げるヒットになった。
10年には、全日本空輸の特別機「ガンダムジェット」のプラモデル化で、再びバンダイとの連携にもつながった。
ハセガワは今年前半、原点ともいうべき450分の1「戦艦大和」のリニューアルキットを投入する。1962年に発表した大和は、大卒初任給1万円台の当時、1500円という高額にもかかわらず爆発的に売れた。
今回は4000円以内に抑えて、作りやすさに重点を置く。アイマスで広げた若者層やその下の子どもたちにも、模型を完成させる喜びを知ってもらいたいからだ。
「スケールモデルはなくさないし、大切にしていく」と語る長谷川さん。「こだわりを持つと、そこから進歩はない。こだわりを持たないことがこだわり」とも明かす。
そんな姿勢から生まれたアイマスプロジェクトに厳しい声を寄せたファンも、今は「模型の将来のため」と多くが理解を示しているという。「模型ファンは厳しいですが、優しい」。自身も優しい笑みを見せた。
http://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/economy/special/list/2013/CK2013022802000257.html
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